経営理念浸透はなぜ必要?企業理念との違いや浸透のポイントを解説

現代のビジネス環境において、優秀な人材の確保は多くの企業が抱える課題の一つです。特に、人口減少が顕著な地方の中小企業にとっては、今後ますます厳しさを増すことが予想されています。

このような状況の中で、企業が人材を獲得し持続的な成長を実現するには、小手先の採用手法にばかり目を向けるのではなく、「経営理念」の浸透が鍵を握ります。

本記事では、経営理念の重要性と、それを効果的に浸透させる方法について詳しく解説します。人材の獲得と定着、組織力の向上を目指す中小企業の経営者の方々にとって、有益な情報となれば幸いです。

経営理念浸透がなぜ必要なのか

経営理念は、単なるスローガンではなく、企業の根幹をなす思想です。経営理念の浸透は、企業の持続的な成長・発展に向けて欠かせません。具体的には次のような効果をもたらします。

  • 従業員が職場で働く意義を見出だせる
  • 社員同士の一体感が高まる
  • 企業ブランディングにつながる
  • 自社に合った人材を採用しやすくなる

続いて、それぞれの効果を詳しくみていきましょう。

従業員が職場で働く意義を見出せる

経営理念が浸透すると、従業員は自分たちの仕事が企業全体の目標やビジョンにどのように貢献しているかを理解しやすくなります。

その結果、従業員の働くモチベーションとエンゲージメント(愛着・思い入れ)が高まり、「もっと組織に貢献しよう」「もっと良い仕事をしよう」という感覚を育てます​。

社員同士の一体感が高まる

経営理念が浸透すると、社員間の一体感が高まります。会社としての共通の目標と価値観が共有されることで、「自分たちは何を目指しているのか?」といった目線が合うため、チームワークが向上し、組織全体のパフォーマンスが高まることが期待できます​​。

企業ブランディングにつながる

経営理念の浸透は、外部に向けた企業イメージやブランディングにも大きく影響します。一人ひとりの従業員が経営理念に基づいて行動することで、組織としての一貫性が生まれるため、企業のイメージアップが期待できます。

自社に合った人材を採用しやすくなる

経営理念が明確で、社内で広く浸透している企業は、その理念に共感する人材を引き寄せやすくなります。例えば、経営理念に沿って求める人物像を明確にしたり、採用プロセスを見直したりすることで、企業文化にフィットする人材を見極めやすくなります。

自社のカルチャーにフィットした人材を採用することで、結果として定着率やパフォーマンスの向上につながります​​。

経営理念と企業理念の違い

経営理念について述べると、「企業理念」と混同される方も少なくありません。どちらも企業の根本的な価値観や考え方を表すものですが、その目的と対象が異なります。

経営理念(Management Philosophy)は、経営者自身の経営に対する価値観や行動指針を明文化したものです。したがって、経営者が代わった場合や時代の変化によって、変わる可能性があります。経営理念は主に社内で共有され、企業経営において基盤となる理念を伝える役割を担います。

一方、企業理念(Corporate Philosophy)は、企業として最も重視する価値観や考えを明文化したもので、経営者が代わっても引き継がれる企業の在り方です。企業理念は、主に社外に向けて企業のイメージやブランドを伝える役割を持ちます​​​​。

一般的には企業理念は、経営理念の上位概念に位置するとされています。したがって、経営理念とは企業理念の実現に必要な目標や方針を明文化したものといえるでしょう。

経営理念企業理念
明文化の対象経営者自身の重要視する価値観や信念を明文化したもの企業の創業から重要視してきた価値観や考え方を明文化したもの
変化のしやすさ経営者の交代や時代の変化に応じて変化する可能性がある経営者が交代しても引き継がれる、変わらない企業のあり方

経営理念が浸透している企業の共通点

経営理念が浸透している企業には、いくつかの共通点があります。これらの共通点は、経営理念を社内で有効に活用し、組織全体の一貫性とエンゲージメントを高めるための鍵となります。

経営層が経営理念の意味や意図を明確に伝えている

経営理念が浸透している企業では、その理念がなぜ生まれたのか、何を意味しているのかがしっかりと言語化されています。さらに経営者や役員が常にメッセージを繰り返すことで、社員間で経営理念に対する共通認識が生まれ、一貫性のある行動を促すことが可能です。

従業員が理念について考え実行する機会を設けている

成功している企業では、従業員が経営理念を自分ごととして捉えられるよう、積極的に考える機会を提供しています。

例えば、ミーティングや企画書作成の際に理念に基づいた考え方を取り入れるなど、日常業務において経営理念を反映する機会を設けています。これにより、従業員は理念に基づいた行動を自然に取り入れることが可能です。

経営理念が浸透している企業事例

経営理念の浸透がどのように企業経営に役立つのか、イメージを持てない方も多いでしょう。ここでは、経営理念を浸透させたことで事業成長を果たした企業の事例を紹介します。

スターバックス

出典:スターバックス

コーヒーチェーンのスターバックスの強みとしてよく知られるのは、「サードプレイス(第三の場所)」というコンセプトです。これは、単なるコーヒーショップを超えて、人々が日常から解放され、リラックスし、人々と交流できる場所を提供するといった意味を持ちます。

同社では1990年に初めてミッションステートメントを言語化し、その後、経営戦略策定において50人以上の従業員と共に3ヶ月をかけてミッションの土台を構築しました。このプロセスは、従業員が理念を内面化することを促し、社内の様々な改革につながっています​​。

スターバックスは経営理念を社員一人ひとりに浸透させたことで、スタッフは優れた顧客体験を提供するようになり、現在では世界中で愛されるブランドとなりました​​。

リッツ・カールトン

出典:リッツ・カールトン

高級ホテルを展開するリッツ・カールトンの経営理念である「ゴールドスタンダード」は、心からのホスピタリティと快適さを顧客に提供することを最も重要な使命としています。この理念では、顧客に対して常に温かく、リラックスできる洗練された雰囲気を提供し、最高のパーソナルサービスと施設を約束しています。

また、顧客の言葉にされない願望やニーズを先読みして応えることをサービスの心としています。リッツ・カールトンは従業員を重要な資産とみなし、人材育成に重点を置くことで、従業員の働きがいやモチベーションの向上につなげています。

オリエンタルランド

出典:オリエンタルランド

ディズニーリゾートを展開するオリエンタルランドの経営理念は、自由で創造的な発想を大切にし、顧客と従業員に対して特別な体験と感動を提供することに焦点を当てています。同社は「自由でみずみずしい発想を原動力に、すばらしい夢と感動、ひととしての喜び、そしてやすらぎを提供します」という使命を掲げており、この使命に基づいて経営活動を展開しています。

また、オリエンタルランドの経営姿勢は、対話を重視し、独創的で高品質な価値を提供すること、個性を尊重し従業員のやる気をサポートすること、絶えず革新と進化を追求し、利益ある成長と社会貢献を両立させること、そして環境との調和と共生を大切にすることを含んでいます。これらの経営姿勢に基づいて、オリエンタルランドは持続可能なビジネスを展開し、社会に貢献しています。

ユナイテッドアローズ

出典:ユナイテッドアローズ

アパレルブランドのユナイテッドアローズは、「真心と美意識をこめてお客様の明日を創り、生活文化のスタンダードを創造し続ける」を経営理念として掲げています。この理念を実現するために、全従業員を対象にした研修機関「束矢大學」を設置しており、経営理念の浸透や教育を目的として活用されています。

また、従業員一人ひとりが会社の目標と自分自身の目標を連動させる「目標管理制度」を導入し、高い行動計画と進捗管理により目標達成を目指しています。さらに、セールスマスター制度や接客コンテスト「束矢グランプリ」なども行い、理念ブックの制作と配布による理念の共有と継承にも取り組んでいます。

ミズノ(美津濃株式会社)

出典:美津濃株式会社

総合スポーツメーカーの美津濃株式会社(以下ミズノ)は「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」という経営理念を掲げ、同社の企業活動の核となっています。

ミズノでは、経営理念の浸透と継承のために、全社一斉に「全社教育」を実施しています。具体的には、毎週月曜日の朝9時30分から10時までの30分間、前半10分は社内報ビデオ「MVC(Mizuno Video Communication)」を放送し、後半20分は各部門ごとに企画・実施される教育を行っています。

また、同社では「ミズノDNA」を学ぶ理念教育をベースとした人材育成を重視しており、創業者の精神を伝える「MIZUNO BRAND BOOK」の制作を通じて経営理念の理解と継承を促進しています。このような取り組みを通じて、ミズノは経営理念を社員に深く根付かせ、それを実務に反映させています。

インナーブランディングとアウターブランディングの違い

経営理念の浸透は、企業ブランディングに役立ちますが、企業ブランディングには、「インナーブランディング」「アウターブランディング」の2種類が存在します。それぞれ役割が異なるため、両者の性質を理解することが大切です。

<インナーブランディング>

インナーブランディングは、組織内部でのブランド戦略を形成し、従業員やスタッフに対して経営理念やブランドの核となる価値観や文化を伝えるためのプロセスです。したがって、経営理念を組織内に浸透させ、従業員が共感・実践することに重きを置きます。

インナーブランディングの役割は、従業員のモチベーションの向上、忠誠心の醸成、一貫性のある行動と意思決定の促進です。組織内での経営理念の浸透を通じて、組織文化が形成され、経営理念が実践されます。

<アウターブランディング>

アウターブランディングは、組織が外部の顧客、協力会社、市場に対して、経営理念に基づくブランドメッセージや価値提案を伝えるための戦略や活動を指します。したがって、経営理念を外部に向けて広め、市場での認知度や信頼を構築することに重きを置きます。

アウターブランディングの役割は、組織のブランドを市場で差別化し、顧客の信頼と忠誠心を獲得することです。経営理念に基づいたブランドメッセージを外部に発信し、市場で競争力を維持するために欠かせない要素です。

インナーブランディングアウターブランディング
対象内部(組織・従業員)外部(市場・顧客)
目的経営理念の浸透、従業員の共感顧客の信頼獲得、市場での競争力維持

経営理念の浸透を成功させるポイント

ここまで経営理念を浸透させる必要性や企業事例を紹介しましたが、具体的にどのように浸透させればよいか悩む方も多いでしょう。ここでは、経営理念の浸透を成功させる上で押さえるべきポイントを紹介します。

経営理念の意図や意味を定期的にメッセージする

経営理念の浸透を促進するためには、経営者やリーダーシップチームが経営理念の意図や意味を定期的に従業員に対してメッセージしなければなりません。

経営理念がなぜ重要であるか、どのように組織の目標と関連しているかを説明し、従業員が経営理念に共感しやすくする役割があります。

経営理念と日々の仕事がどのようにつながるか話し合いの場を設ける

経営理念は日常業務と結びついていることを従業員に示すことが重要です。経営理念と日々の業務がどのように関連しているか具体例を交えて共有したり、社員同士が日々の仕事と経営理念がどのようにつながるか会話する場を設けましょう。

これにより、経営理念が抽象的な概念ではなく、具体的に日々の仕事に落とし込めるようになり、品質向上やモチベーションの向上につながります。

経営理念を社内制度や人事評価制度に取り入れる

経営理念を浸透させるためには、組織の社内制度や人事評価制度に経営理念を組み込むことが効果的です。

例えば、経営理念に基づいた行動や成果を評価し、報酬や昇進に反映させるなどの仕組みを作ります。これにより、従業員は経営理念を実践する動機づけが高まり、浸透が促進されます。

まとめ

本記事では、経営理念の浸透が中小企業にとっていかに重要であるかについて解説しました。経営理念が浸透している企業は、従業員がその職場で働く意味・意義を見出していることが多いため、モチベーションが高く、離職率が低いことも特徴です。

労働人口減少に歯止めが効かない中、限られた人的リソースを活用し、組織として生産性を高めることが大切です。そうした中で、経営理念は単なる標語ではなく、企業文化と戦略のコアであり、その浸透は企業の持続的な成功の鍵を握るといっても過言ではありません。

したがって、中小企業の経営者は経営理念の価値を十分に理解し、社員に繰り返し伝えることが大切です。

弊社はこれまで多くの企業から経営理念策定および浸透の相談を受けてきました。その経験とノウハウを活かし、経営理念の役割を発揮するためのコンサルティングを提供します。経営理念の浸透にお悩みの経営者様はお気軽にお問い合わせください。

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