オンボーディングとは?目的やメリット、実施のポイントを詳しく解説

人材の確保と育成は、地方の中小企業にとって今や切実な課題です。特に新入社員の早期離職は、採用コストの増大と人材不足の悪循環を招きます。

そこで注目されている取り組みが、「オンボーディング」です。本記事では、オンボーディングの重要性と実施方法について詳しく解説します。新入社員が早期に会社に馴染み、長期的に貢献できるようにする秘訣を探るために、ぜひご一読ください。

オンボーディングとは

オンボーディングとは、新入社員が組織の一員として迅速に適応し、効果的に働ける状態を目指す取り組みを指します。具体的には、新入社員が会社の文化、価値観、期待される業務内容を理解したり、チームメンバーや上司との関係を築いたりするための活動が含まれます。したがって、オンボーディングは単なるオリエンテーションや初期研修に留まらず、新入社員が長期的に組織に貢献できるように支援する包括的な取り組みといえるでしょう。

特に近年では人材不足が深刻化により採用難に陥っていることや、新入社員の早期離職は多くの企業で課題となっています。特に早期離職は再採用コストの増加や業務の遅延など、企業にとって多大な損失をもたらします。

こうした状況において、オンボーディングは新入社員の組織へのスムーズな定着を促すうえで重要な役割を担います。企業が適切にオンボーディングに取り組むことは、新入社員が早期に会社の一員として機能し、長期的な貢献を果たす基盤を築くことにつながります。

オンボーディングの目的とは?

オンボーディングは、新入社員が迅速に組織に適応し、効果的に働けるようにするための重要な取り組みです。企業がオンボーディングを行う主な目的としては、新入社員の早期育成、早期離職の防止、そして人材育成の仕組みを整備することなどが挙げられます。

これらの目的を達成することで、組織全体の生産性と効率性が向上し、長期的な成功につながります。続いてそれぞれの目的を詳しく見ていきましょう。

新入社員の早期育成を図るため

オンボーディングの主な目的の一つとして、新入社員の早期育成が挙げられます。新入社員が迅速に組織の文化や業務を理解し、効率的に業務を遂行できるようになれば、組織としての生産性が向上します。

例えば、新入社員に対して研修を実施したり、定期的にフィードバックを図ったりすることで、早い段階でチームに貢献できるようになるでしょう。したがって、オンボーディングは新入社員の迅速な育成を促進するうえで重要な役割を担います。

早期離職を防ぐため

オンボーディングは、新入社員の早期離職を防ぐことも目的に挙げられます。適切なオンボーディングにより、新入社員は職場環境や同僚との関係に早く適応し、就業満足度やエンゲージメントの向上が期待できます。

例えば、メンターやチームメンバーが新入社員と定期的にコミュニケーションを取ることで、不安や不満が解消され、早期離職のリスクが少なくなるでしょう。したがって、オンボーディングは新入社員の早期離職の防止に効果的です。

人材育成の仕組みを整えるため

人材育成の仕組みを整えることもオンボーディングの目的の一つです。オンボーディングに取り組むことで、部署ごとの教育格差を防ぎ、教育の均一性を保つことができます。

例えば、組織全体で統一されたオンボーディングプログラムを実施することで、全ての新入社員が同じレベルのトレーニングを受講することになるため、情報の抜け漏れを防ぐほか、新入社員の理解度合いを測ることも可能です。

このように、育成を仕組み化することで、人事部門や育成担当者の負担が軽減されるとともに、新入社員の早期育成につながります。

オンボーディングが重視されるようになった背景

そもそも、なぜオンボーディングが重視されるようになったのでしょうか。その背景には、大きく2つの要因が挙げられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。

労働人口減少による人材採用難

1つ目は、労働人口の減少です。少子高齢化の進行により労働力も減少の一途を辿っており、企業は適切な人材を獲得することが難しくなっています。

特に地方の中小企業では、都市部に比べて候補者が限られているため、人材を集めるだけではなく採用された人材の育成と定着化が大きな課題です。そこで、オンボーディングの重要性がますます高まっています。

早期離職率の上昇

早期離職率の上昇も、オンボーディングの重要性を高めています。新入社員が職場環境や業務内容に適応できず、早期に離職するケースは珍しくありません。

例えば、新入社員が期待と異なる職場環境や業務内容に直面したり、適切なサポートやガイダンスがなかったりした場合、早期離職の可能性が高まります。こうした早期離職を防ぐために、オンボーディングの重要性が高まっています。

オンボーディングを行うことによるメリット

オンボーディングを行うことで、新入社員だけでなく、組織全体にとってさまざまなメリットをもたらします。ここでは、主なメリットを3つ解説します。

従業員の定着率が向上し、採用コストの削減につながる

オンボーディングは従業員の定着率を向上させます。新入社員が組織に迅速に適応し、職場環境に満足することで、長期的に企業に留まる可能性が高まります。

例えば、適切なオンボーディングプログラムを実施することで、新入社員は職場の文化や業務に早期に馴染み、エンゲージメント(職場への帰属意識)が高まります。したがって、オンボーディングは従業員の定着率を高め、結果として採用コストの削減につながるでしょう。

従業員の就業満足度が向上し、パフォーマンスが高まる

オンボーディングによって、従業員が職場環境や業務内容に満足することでモチベーションが高まり、仕事に対するパフォーマンスが向上します。

例えば、新入社員が適切なサポートを受けることで、業務に対する理解が深まり、より良い成果を出すことが可能です。また、行った仕事に対して適切なフィードバックを与えたり、周囲が称賛したりすることで、仕事に対するモチベーションが高まります。

従業員同士の人間関係が良好になり、一体感が高まる

オンボーディングは従業員同士の人間関係を良好にする効果があります。新入社員が同僚や上司との信頼関係を早期に築くことで、組織としての一体感が高まるでしょう。

例えば、新入社員が複数名いる場合、共有のオンボーディング活動を通じてコミュニケーションを深めることが可能です。したがって、オンボーディングに取り組むことで、従業員同士の良好な人間関係の構築と職場内での一体感向上に寄与します。

オンボーディング実施のポイント

オンボーディングを実施する際は、いくつかのポイントを押さえることが大切です。ここでは、具体的なオンボーディングのポイントを6つ解説します。

事前に受け入れ態勢を作っておく

オンボーディングを実施する際は、あらかじめ受け入れ態勢を準備しておくことが重要です。新入社員がスムーズに職場に適応するためにも、事前にマニュアルやチェックリストを用意し、必要な情報やリソースを整えましょう。

例えば、新入社員が必要とする情報をまとめたチェックリストや、オリエンテーションに使用するマニュアルを用意することで、新入社員はスムーズに開始することができます。したがって、事前に受け入れ態勢を整えることは、オンボーディングの成功に不可欠です。

目標を細かく設定し、スモールステップで進める

オンボーディングを実施する際は、月単位、週単位、日単位など細かく目標を設定し、スモールステップで段階的に取り組むことが大切です。新入社員は、小さな成功体験を積み重ねることで、自信を持って業務に取り組むことができます。

例えば、最初は簡単なタスクから始め、徐々に難易度を高めていくことで、新入社員は段階的にスキルを習得し、業務への貢献を高めることが可能です。したがって、目標を細かく設定し、スモールステップで進めることは、オンボーディングの効果を最大化するために重要です。

メンター制度を導入する

オンボーディングを成功させるには、メンター制度の導入も有効です。メンターは新入社員に対して、業務上の指導だけでなく、職場の文化や人間関係についてアドバイスする役割を担います。

例えば、新入社員に対して、経験豊富な社員をメンターとして割り当てることで、新入社員は職場に早く馴染み、業務上の問題や疑問を解決するサポートを受けることが可能です。したがって、メンター制度の導入は、新入社員の迅速な適応と成長を促進するために重要です。

定期的にフォローする

オンボーディングにおいて、定期的なフォローアップは欠かせません。先輩や上司は、新入社員の進捗状況を確認し、必要に応じたサポートを提供します。

例えば、定期的に1対1ミーティングを行うことで、新入社員は自分の成長を実感したり、課題を明確にすることが可能です。したがって、定期的なフォローアップは、新入社員の成長を促すために重要な役割を担います。

他部署も巻き込み、全社ぐるみで行う

オンボーディングは、他部署も巻き込んで全社的に行うことが重要です。新入社員が組織全体の一部として機能するためには、異なる部署やチームとの連携が欠かせません。

例えば、他部署のメンバーとの交流やプロジェクトへの参加を通じて、新入社員は会社全体の業務や文化を理解し、より広い視野を持つことができます。このため、他部署も巻き込んだ全社的なオンボーディングは、新入社員が組織全体に貢献するために重要です。

オンボーディングを実施する流れ

ここまでオンボーディングの目的やメリットについて解説しましたが、具体的にどのように進めればよいかイメージが湧かない方も多いでしょう。ここでは、入社前、入社後、入社数カ月後の3つのフェーズに分けて解説しますので、参考にしてください。

入社前

入社前の段階では、企業文化や職場のルール、必要な業務知識などのマニュアルを用意することが中心です。また、新入社員が早く会社の風土に馴染めるように、組織全体で新入社員の受け入れ態勢を整えることが重要です。

入社初日に必要な備品や環境を整えたり、オリエンテーションを行ったりするほか、歓迎会を行うなど「ウェルカム感」を出すことが、新入社員のモチベーションアップにつながります。

入社後

入社後は、新入社員が職場に馴染み、効率的に業務を開始できるようにサポートすることに焦点を当てます。この段階では、新入社員に対する教育マインドを醸成させ、先輩や上司が新入社員を放置しないことがポイントです。

先述した、メンター制度の導入も、この段階で検討されることが多いです。メンター制度を導入することで、新入社員は業務上の問題や人間関係に関する相談を気軽に行うことができ、孤立を防ぐことが期待できます。

入社数カ月後

入社数カ月後は、新入社員が職場に完全に馴染み、自己の役割を理解し、チームの一員として貢献できるようになることを目指します。この段階では、新入社員の進捗状況を確認し、必要に応じて追加のサポートを提供しましょう。

また、新入社員が組織の一員として認められたと感じるような受け入れ体制を継続することが重要です。定期的なミーティングや進捗管理を行い、新入社員の成長をサポートすることで、組織全体の生産性の向上に貢献します。

オンボーディング実施企業例

ここでは、オンボーディングに取り組んだことで、新規採用や早期離職防止につなげた企業事例を3社紹介します。

株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント

出典:株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント

人材紹介サービスを展開する、ジェイ エイ シー リクルートメント(以下JAC)は、2030年に「人材紹介のプロフェッショナル集団として質と収益で世界No.1」を目指しており、毎年多くの新入社員を迎え入れています。

同社では、新入社員が早期に質の高いサービスを提供できる状態を実現するために、オンボーディングに力を入れる必要がありました。そこで2022年12月に「JAC Standard」として、入社後習得すべきスキルやノウハウをまとめた教育プログラムを確立。これまで言語化が難しかったプロフェッショナルコンサルタント像や業務ロードマップ、ケーススタディが一冊にまとめられ、全社員が業務や育成のベースとして活用しています。

さらに2023年7月より、集合研修期間を3ヶ月間に伸ばし、集合型研修と伴走型トレーニングを融合させた新たな研修体制に変更。Off-JTとOJTを研修期間中で繰り返し行い、実践に近いインストールを増やしています。また、1対少数の研修やロープレ・1on1などのアクションラーニングを行い、実践に近い状況での学習を促進しています。

こうした研修体制により、新入社員は人材紹介に必要なコンサルタントの基礎を早期に身に付けることに成功しました。また、日常的にHRと入社者間のコミュニケーションが増え、育成進捗を共有することで、より効果的な教育・研修体制を構築しています。

参考:ジェイ エイ シー リクルートメント(note)

freee株式会社

出典:freee株式会社

クラウド会計ソフトfreeeを開発・運用するfreee株式会社では、入社直後から採用への熱量を伝えることに重点を置いています。例えば、中途入社の研修内に採用チームのオンボーディング時間を設け、「我々の採用は本気です」と話すことで、新入社員にfreeeの採用への熱量を伝えています。

また、同社では面接官のトレーニングを徹底しており、「面接官 虎の巻」という研修を通じて、面接官に「freeeの採用 = freeeのファンを作ること」という意識を持ってもらい、面接のトレーニングと採用にかける想いをインプットしています。

面接官になるマネージャーやメンバーは、面接の度にfreeeの想いを再認識し、採用への熱量が増していく仕組みを作っています。さらに、freeeでは採用活動を「会社のイメージ・ブランディング」と捉えているため、候補者に良い体験をしてもらうことで、仮にご縁がなくてもfreeeのファンになってもらうことを目指しています。

また、freeeの採用チームは、採用活動を通じてfreeeの「マジ価値」という会社の価値基準を大切にし、この価値基準を共有できる人材を採用することをミッションとしています。面接や選考では「マジ価値」に基づいたカルチャー面を重視し、候補者にfreeeの考え方を伝えることに努めています。

このように、freeeでは全社員が一丸となって採用活動に取り組み、採用チームが中心となって採用に対する熱量を高め、候補者にfreeeのファンになってもらうことを目指しています。

参考:freee株式会社(Wantedly)

株式会社カミナシ

出典:株式会社カミナシ

現場DXプラットフォーム「KAMINASHI」を開発・運営する株式会社カミナシでは、カスタマーサクセスチームの急拡大期に備えて、「新人CS オンボーディングの仕組み化」を実施しました。

スタートアップ創業期や新規事業の立ち上げ初期では、メンバーオンボーディングが「とりあえずやりながら学ぶ」というスタイルが多い中、同社では新しいメンバーが入社する前段階でのオンボーディングの仕組み化にすることに着手しました。

同社が具体的に取り組んだことは次の通りです。

  • オンボーディング要素の抽出:メンターより共有された「実施してほしいこと」を全て書き出し、新人メンバーが即戦力化するために必要な要素の洗い出し
  • 基準の明確化:オンボーディング要素に「達成した」と言える基準の設定
  • オンボーディング状況の管理:Notionのデータベース機能を使用して進捗管理を実施
  • コミュニケーション:入社後2週間は毎日15分の1on1を設け、メンバーが困ったことがあればすぐに解消できる環境を整備。また、達成状況をSlackで報告し、従業員が称賛する風土を醸成

さらに、アップデートを繰り返しながら新人メンバー入社時に活用されています。こうした取り組みにより、カミナシでは新人メンバーが効率的に即戦力化し、チーム全体のパフォーマンス向上につながりました。

参考:株式会社カミナシ(note)

まとめ

本記事では、オンボーディングについて、基本からメリット、具体的な実施方法まで詳しく解説しました。効果的なオンボーディングプログラムの実施は、新入社員の早期適応を促し、企業の成長と発展に大きく貢献することが期待されます。

特に人材不足による優秀な人材確保に課題を抱える地方の中小企業の経営者にとって、オンボーディングは事業成長を左右する重要な取り組みといえるでしょう。

一方、オンボーディングを成功させるには、マニュアルなどの事前準備やメンターの育成、社内への浸透などの取り組みが欠かせません。したがって、オンボーディングに取り組む際は、目的・目標を明確にした上で、スモールスタートで行うようにしましょう。

具体的にどういった手順で進めればよいかお悩みの場合や、専門家に相談することもおすすめです。もし、オンボーディングにお困りの際は弊社までご相談ください。弊社は、これまで多くの企業からオンボーディングの相談を受けてきました。

その経験とノウハウを活かし、最適なコンサルティングを提供します。オンボーディングにお悩みの経営者様はお気軽にお問い合わせください。

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