心理的安全性とは?組織にもたらすメリットをわかりやすく解説
近年、経営者や組織リーダーの間で「心理的安全性」という言葉が注目されています。特に中小企業の多くが、人手不足や離職率の増加といった課題に直面している中、その課題解決の鍵となるのが心理的安全性の向上です。
しかし、心理的安全性とは具体的に何を指すのか、また組織の業績や離職率にどのように影響するのか、イメージが湧かない方も多いでしょう。そこで本記事では、心理的安全性の本質と、それを高めることで得られるメリット、そして具体的な取り組み方について詳しく解説します。
目次
心理的安全性が注目される背景
近年、優れた組織作りにおいて重要視されている「心理的安全性」ですが、世界的に注目されるようになったキッカケが、Google社が2012~2015年の間に行った「プロジェクトアリストテレス」という組織の生産性向上を目的としたプロジェクトです。
詳細は後述しますが、同プロジェクトの研究成果として、チームや組織の生産性向上に心理的安全性が重要であるという結論が導き出されました。こうした背景から、心理的安全性はチームや組織の生産性やイノベーションを向上させる要因として、多くの企業や組織で取り入れられるようになったのです。
心理的安全性とは?ぬるま湯組織との違い
そもそも心理的安全性とは、心理学用語の「サイコロジカルセーフティ(psychological safety)」という英語を和訳したもので、ビジネスにおいては、相手の視線や思惑などを気にせず、自分の意見が率直に言える状態を指します。
つまり、職場内で自分の意見や考えを率直に伝えても、人間関係が壊れることや、非難を受ける心配もない状態を指します。心理的安全性は、Google社が研究結果を発表して以来、人事・HRやマネジメント領域で注目を集めるようになりました。
ぬるま湯組織との違い
心理的安全性が高い組織は、個人が自らの考えや意見をオープンに共有できることから、組織全体の成長やイノベーションにつながるといわれています。
一方、心理的安全性が高い組織は、「ぬるま湯組織」と混同されることがありますが、実際には大きな違いが存在します。
心理的安全性が高い職場 | ぬるま湯組織 | |
意見の共有 | 活発に意見が交わされ、対立も受け入れられる | 意見の対立を避け、空気を読む文化 |
業務への取り組み | 目的や成果を追求し、成長を目指す | 業務の流れに乗り、変革を避ける |
失敗に対する姿勢 | 失敗を経験として受け入れ、学びとする | 失敗を恐れ、リスクを避ける傾向 |
イノベーション | 新しいアイディアや取り組みが奨励される | 現状維持を重視し、変革が難しい |
コミュニケーション | 率直に意見を伝える文化 | 空気を読む、遠慮する文化 |
このように、心理的安全性の高い職場は、新しいアイディアや意見が尊重される環境であり、失敗を恐れずに挑戦することができます。一方、ぬるま湯組織は、安定を求めるあまり変革や挑戦が難しくなる傾向があります。
心理的安全性が高いとなぜ成果が上がるのか(プロジェクトアリストテレス)
心理的安全性が高い組織やチームは、メンバーが自らの意見や考えを恐れることなく発信できます。このオープンなコミュニケーションの環境は、多様な視点やアイディアの交換を促進し、より質の高い意思決定や問題解決を実現します。また、新しい取り組みに対して失敗を恐れることなく、積極的な挑戦が奨励されることで、組織のイノベーションや変革が進むといわれています。
この考えを裏付ける根拠として挙げられるのが、Googleが行った「プロジェクトアリストテレス」という研究です。同研究では、Google社内の複数のチームを対象に、チームの成功要因を探るための調査が行われました。
その結果、心理的安全性が高いチームは、他のチームと比べて明らかに高い成果を上げていることが確認されました。この研究は、心理的安全性が組織の成果や生産性にどれほどの影響を与えるのかを明確に示しています。
参考:「効果的なチームとは何か」を知る|Google
心理的安全性が高い組織を作るメリット
心理的安全性を高めることで組織には多くのメリットをもたらします。ここでは、主なメリットを解説します。
集中力が高まり、パフォーマンスが向上する
心理的安全性が高い環境では、メンバーは自分の意見や考えを恐れることなく表現できます。こうした環境は、業務に対する集中を促進し、フロー状態に入りやすくなります。フロー状態とは、時間が経つのを忘れるほど作業に没頭している状態のことです。
一人ひとりの集中力が高まることで、結果として組織全体の生産性やパフォーマンスが向上します。また、ミスや失敗を恐れずに新しい取り組みや挑戦をすることが奨励されるため、創造性や主体性の発揮も期待できるでしょう。
コミュニケーションが活発になり風通しが良くなる
心理的安全性が高まると、メンバー間のコミュニケーションが活発化します。オープンなコミュニケーションが奨励されることで、情報の共有や意見の交換がスムーズに行われ、組織内の風通しが良くなります。これにより、誤解や摩擦が減少し、チームワークの向上が期待できるでしょう。
ストレスが減りエンゲージメントが高まる
メンバーが安心して働ける環境が整うことで、職場内のストレスが軽減します。ストレスが少ない環境は、メンバーのエンゲージメントを高め、仕事のやりがいや満足度を高める鍵です。これにより、組織の離職率の低下や、長期的なメンバーの定着が期待されます。
価値観の多様化によりイノベーションが生まれる
心理的安全性の高い組織では、多様な価値観や背景を持つメンバーが自由に意見を交換することが奨励されます。こうした多様性を尊重する風土は、新しいアイディアやイノベーションの創出を促進します。
異なる視点や考え方の組み合わせにより、従来の方法では考えられなかったような新しい取り組みや解決策の発見を期待できるでしょう。
心理的安全性が低い組織で起こる「4つの不安」とは
心理的安全性を研究するエドモンドソン教授によると、心理的安全性が低い組織では、メンバーに4つの不安が起こりやすくなると述べています。それらを放置すると、パフォーマンスの低下を引き起こすと懸念されています。ここでは、4つの不安を詳しく見ていきましょう。
「無知」に対する不安
心理的安全性が不足していると、「こんな質問をしたら、無知だと思われるのではないだろうか」という不安が生まれます。無知に対する不安があると、困っていても質問をためらってしまうことが多くなります。
仕事を正しく理解しないまま進めることで、結果としてミスが増える可能性が高まります。また、上司や同僚に相談しなくなることで、業務への意欲やチーム内のコミュニケーションも低下する恐れがあります。
「無能」に対する不安
失敗やミスをした際に「こんな簡単なこともできないのか」といったように、自分の能力が疑われるのではないかという不安が生まれます。このような環境では、ミスを隠したり、失敗を避けるために新しい取り組みに挑戦しなくなったりして、組織の成長が停滞する恐れがあります。
「邪魔」に対する不安
自分の意見や考えがプロジェクトの進行を妨げるのではないか、自分はチームに必要とされていないのではないかという不安が生まれることがあります。この結果、意見交換の場が減少し、組織の多様性や創造性が損なわれる可能性が考えられます。
「ネガティブ」に対する不安
異なる意見や視点を持つことで、「否定的だ」「空気が読めない」といったように、ネガティブに受け取られるのではないかという懸念が生まれます。このような環境では、多様な価値観や異なる意見を尊重する文化が育たず、組織の柔軟性が失われる恐れがあります。
心理的安全性が高い企業の実例
心理的安全性が高い企業の実例として、ここではいくつかの企業を紹介します。
株式会社LIFULL
画像参照:株式会社LIFULL
住宅・不動産ポータルサイト「LIFULL HOME’S」の企画・運営を手掛ける株式会社LIFULLでは、心理的安全性の高い環境を築くための次のような取り組みを実施しました。
- 社内で定期的にビジョンを発信
- メンバーごとにキャリアデザインシートの記入
- 1on1ミーティングの実施
- BBQやサバイバルゲームなど社内交流イベントの提供
こうした取り組みにより、社内コミュニケーションが活性化し、就業満足度の向上ならびに離職率の低下を実現しました。
参考:Motivation Cloud|株式会社LIFULL 「日本一働きたい会社」創りの秘訣とは
株式会社メルカリ
画像参照:株式会社メルカリ
フリマアプリサービスの開発・運用を手掛ける株式会社メルカリでは、従業員同士の就業満足度やチームワークを高める取り組みを積極的に実施しています。代表的な取り組みが、メンバー同士が拠点を超えて、リアルタイムに称賛や感謝の気持ちを届けられる「メルチップ」の導入です。
メルチップは、Slack内で一定額のインセンティブを贈り合えるというもので、この取り組みの結果拠点や部署を横断して、心理的安全性の高い組織環境づくりを実現しています。
参考:mercan|メルカリのピアボーナス制度「メルチップ」、メッセージ累計数が100万を突破しました〜!#メルカリな日々
Chatwork株式会社
画像参照:Chatwork株式会社
ビジネスチャットツール「Chatwork」を提供するChatwork株式会社は、新入社員が入社する前から企業のカルチャーを感じてもらいたいという想いから、”Welcome BOX”という取り組みを開始しました。Welcome BOXには、カルチャーブックやCEOからのメッセージ、オリジナルグッズなどが梱包され、内定者の自宅に届けられます。
この取り組みの結果、新入社員から「”Welcome BOX”が届いてとても嬉しかった!」という声が寄せられており、既存社員からも「私もこんなものが欲しかった!」という反響がありました。新入社員が入社前から不安を感じることなく、会社のカルチャーを感じることができる有効な取り組みです。
参考:note|入社前からカルチャーに触れてほしい。”Welcome BOX”はじまりました!
組織における心理的安全性の高め方
心理的安全性を高めるための取り組みは多岐に渡りますが、その中でも具体的な方法やアプローチを詳しく解説します。
7つの質問で組織の心理的安全性を測る
エドモンソン教授によって提唱された心理的安全性を測るための7つの質問は、組織やチームの現状を把握し、必要な改善点を見つけ出すための有効な手段となります。
Q1.チームの中でミスをすると、たいてい非難される
Q2.チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える
Q3.チームのメンバーは、自分と異なるということを理由に他者を拒絶することがある
Q4.チームに対してリスクのある行動をしても安全である
Q5.チームのほかのメンバーに助けを求めることは難しい
Q6.チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない
Q7.チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる
上記の質問に対して5段階評価で回答してもらいます。該当しない場合は「1」、該当する場合は「5」で評価します。合計点数が低ければ「心理的安全性が高い」、点数が高い場合は「心理的安全性が低い」となります。特に低い点数を示す項目は、改善のためのアクションを起こすきっかけとなるでしょう。
メンバーの考え・価値観を尊重する
組織内で高い心理的安全性を確立するために、メンバーの考えや価値観の尊重が大切です。異なる背景や経験を持つメンバーからの意見や視点を受け入れることで、新しいアイデアや解決策が生まれやすくなります。
また、お互いを尊重し合うことで、メンバー間の信頼関係が深まり、チームワークの発揮が期待できるでしょう。
メンバーに対し感謝の気持ちを示す
日々の業務の中で、メンバーの努力や頑張りに対し、感謝の気持ちを示すことはとても重要です。「いつもありがとう」「本当に助けられているよ」といったような労いの言葉を掛けるだけでも、メンバーのモチベーションが向上し、心理的安全性も高まるでしょう。
また、社内で称賛の文化を根付かせることで、組織全体の心理的安全性が高まり、エンゲージメントの向上にもつながります。
話しかけやすい雰囲気を作る
組織内でのオープンなコミュニケーションを促進するためには、話しかけやすい雰囲気の醸成が必要です。これにより、メンバー同士が自由に意見やアイデアを共有し、問題点の早期発見および、改善策の実行が可能となります。
完璧を求めないことを伝える
組織の中で、失敗やミスを許さず、完璧にこだわり過ぎる文化が根付いていると、メンバーは新しい取り組みや提案を恐れるようになります。消極的な姿勢は、組織の衰退につながりかねません。
そのため、ミスや失敗も経験と捉え、学びの機会とすることを伝えることで、実験的な取り組みやイノベーションが促進されます。
お互いに協力し合う風土を作る
協力的な風土の醸成は、チームの生産性や効果性を高める鍵となります。メンバーが互いの強みを活かし、サポートし合うことで、目標達成に向けてのスピードやクオリティが向上します。
チームビルディング研修の実施や、全員が楽しめる社内イベントを企画することで、チームの結束力が高まり、協力的な風土醸成につながります。
問題を前向きに捉え、建設的な会話を意識する
組織では問題や課題は常に存在します。それに対して、不満や愚痴をこぼすだけでは、何も解決しないばかりか、組織としての成長は見込めません。どのような状況でも前向きに捉え、建設的な会話をすることで、解決策を見つけ出すことが可能です。
常にポジティブな状態でいることで、今までにない革新的なアイデアが生まれやすくなり、組織の成長や進化を促進することにつながります。
心理的安全性を高くするためのマネジメント方法
組織の心理的安全性を高めるためには、具体的なマネジメント手法の導入や適用が不可欠です。ここでは、心理的安全性を高めるための代表的なマネジメント方法を紹介します。
1on1ミーティング
1on1ミーティングは、上司と部下、またはチームリーダーとメンバーが定期的に行う個別のミーティングです。このミーティングの目的は、業務の進捗や課題、懸念点を共有し、フィードバックを提供することにあります。
あくまでも、上司が部下の業績を詰める場ではなく、相手の正直な価値観や悩み・不安を受け入れながら、解決に向けたサポートに徹することが大切です。心理的安全性を高めるためには、オープンなコミュニケーションが不可欠であり、1on1ミーティングは有効な手段となります。
OKR
OKR(Objectives and Key Results)は、組織の目標とその達成のための主要な結果を明確にするフレームワークです。具体的には、はじめに組織としての大目標(Objectives)を定め、目標達成の指標となる成果指標(Key Result)を設定します。
目標を数値化することで、進捗がわかりやすく、達成に向けてメンバー間のコミュニケーションも活発化します。心理的安全性を高めるためには、組織の目標に対して一人ひとりが役割を理解し、達成に向かって取り組むことが重要です。
ピアボーナス
ピアボーナスは、同僚から同僚への感謝や評価を形にしたものです。例えば、日頃のサポートに感謝の言葉を伝える「ありがとうカード」などがあります。
心理的安全性を高めるためには、メンバー同士の相互評価や感謝の文化が不可欠です。ピアボーナスは、その文化を醸成するための具体的な手段として導入されます。
雑談
雑談は、業務に直接関連しない自由な会話を指します。心理的安全性を高めるためには、メンバー同士の人間関係や信頼関係の構築が重要です。雑談というと、無駄な時間と捉えられがちですが、プライベートのことでも気軽に話せることは心理的安全性の向上につながります。
また、自由な会話の中から、思いも寄らないアイデアが生まれることも少なくありません。例えば、ランチミーティングの開催や、固定のデスクをなくしたフリーアドレス制を導入することで、雑談が促進されます。
心理的安全性と責任の関係
組織やチームの中で、心理的安全性と責任のバランスは非常に重要です。心理的安全性が高いだけで責任感が低い組織は、メンバーが快適に過ごすことはできるかもしれませんが、その結果として新しいアイディアやイノベーションの創出が難しくなる可能性があります。
逆に、心理的安全性が低く、責任感が強い組織では、メンバーが常にプレッシャーを感じ、イノベーションの創出が阻害される恐れがあります。
理想的なのは、心理的安全性と責任感が共存する組織です。このバランスが取れている組織では、メンバーは自らの意見を自信を持って表現し、その上で自らの業務に対する責任を果たすことができます。このような環境下での学習や成果の創出は、組織の活性化や成長を促進します。
この理想的な状態を実現するためには、明確な目標設定や1on1ミーティングの機会を増やすなどの取り組みが必要です。また、メンバー間で感謝の気持ちを共有する「ピアボーナス」の導入や、発言の機会を平等に与えることも効果的ですので積極的に取り入れることをおすすめします。
最終的に、心理的安全性を最大限に活かすためには、各メンバーに適切な責任を与え、その責任を明確にすることが重要です。
まとめ
心理的安全性は、組織やチームの健全な成長とイノベーションを促進する鍵を握ります。組織内での心理的安全性と責任のバランスを適切に保つことで、各メンバーは主体的に業務に取り組むようになり、組織の活性化と持続的な成長が期待できるでしょう。
特に、人材採用の難易度が一層厳しさを増す中、組織内の心理的安全性を高める取り組みやマネジメント方法は、定着率の向上や採用活動時のブランディングにもつながります。したがって、中小企業の経営者は心理的安全性の価値を十分に理解し、管理者と共に組織作りに取り組むことが大切です。
弊社はこれまで多くの企業に心理的安全性の相談を受けてきました。その経験とノウハウを活かし、心理的安全性の役割を最大限に発揮するためのコンサルティングを提供します。
心理的安全性の向上に着手したい経営者様はお気軽にお問い合わせください。
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